大和魂、継承。

ワールドカップ目前! Spesical師弟対談


第4回カラテワールドカップが、いよいよ目前となった。
本誌では年頭から日本代表選手達のインタビューをお届けしてきたが、
連続企画のラストを締めくくるべく、日本代表選手団の三好一男総監督と、
野本尚裕主将に登場していただいた。師弟関係でもある二人が、
ロシアに向けての決意を語る。

 Text/本島燈家、米山祐子  Photos:米山祐子、林田哲臣

−ウエイト制大会も終わり、ワールドカップか目前に迫りました。

三好 もうここまで来たので、選手たちには自分たちがやってきた稽古を信じて、思う存分、ロシアで力を出してほしいなと思います。日本選手団として一丸となって強化稽古もやってきましたから、彼らのがんばりを我々は信じてます。あとはケガだけ気をつけてほしい。

野本 海外の選手に対しての危機感と言うのは以前から言われていたことですし、それに対抗できるよう、自分でもできることは一生懸命に稽古してきました。ウエイト制大会でもいろいろな選手と話をしてみたんですが、みんなかなり追い込んだ稽古をしているようです。選手団が一丸となって闘えるよう、オールジャパンの合宿も企画していただいて、合宿を通して各々が感じたことを、あとは試合で出し切るだけです。

−今年のオールジャパン強化合宿は、選手たちが意見を出し合って稽古するという今までにないスタイルでしたね。

三好 ここまで来た選手たちというのは、それぞれのスタイルがありますからね。それを引き出そうということで、ああいう方針になったんです。すでに各道場でも追い込んだ稽古をしてきているので、ケガをしないように、オーバーワークにならないようにといつも心配しています。

野本 選手主体で、選手一人ひとりがテーマを作って稽古するというのはいいですね。重量級のグループは、世界大会の経験も豊富な塚本選手に上段系の技を主体で教えてもらったりしたんですが、各々の意見が生きていて、それがとても参考になりました。すごくいい稽古でした。

三好 最終的に日本人同士が当たるところまでいけるかどうか。そこがポイントですからね。個人競技ですから、お互いがライバルなんですけど、やはりオールジャパンとして自分の知っている情報、もしくはテクニックを惜しげもなく教え合って、協力し合っている姿が、すごく良かったですね。

−回を重ねるごとに、チームとして意識も高まっているように見えます。

三好 この合宿をスタートしたというのは大きいでしょうね。昔のオールジャパンの選手はそれぞれ別々に稽古して、大会の当日にしか会わないわけですから、お互いが単純にライバルなんですよ。オールジャパンのチームというふうになってきたのは、回を重ねてきた結果だと思いますね。

−チームの強さとは何でしょう。

三好 世界大会、ワールドカップを経験してきた選手が多いですからね。その中で、自分が「こうすればよかった」「ああすればよかった」「ここで失敗した」とか、いろんな経験がある。それをアドバイスしている姿が、ひじょうにチームとしてプラスだなと思います。

野本 押忍。自分なんかは海外での試合経験がないですから、海外の試合を経験されている選手の生の話を聞けるというのは、すごく参考になりました。

三好 それと、自分の大事な技を一生懸命みんなで教え合っているんですよね。みんなにも勝ってもらいたいと。そういう姿が見受けられて、これはすごい選手団になってきたなと思いましたね。普通なら自分の技なんて見せないですからね。新極真という一つのでっかいファミリーになってきたなと、つくづく思いますね。


どんなに苦しくてもあきらめない。絶対に後ろに下がらない。
それが我々が大山総裁から教わったことです(三好師範)

前へ前へ、倒れるなら前を向いて倒れるというのは意識しています(野本)

−合宿中、選手のみなさん同士は、どんな話をしていたんですか?

野本 やはり技術的な部分が多かったです。海外選手特有のリズムだったり、攻撃であったり。あとはよく言われることですが、判定でも日本で試合をするような気持ちでやっていたら海外では勝てないということですね。一本で勝つ、あるいはしっかり効かせて勝つ。そうやって明確な差をつけていかないと勝てないだろうという話をあらためてしました。

三好 審判のレベルの問題もあるとは思いますが、3-0という微妙な差での勝ちというのは、まずないと思うんですよ。今までの世界大会やハンガリーの判定を見ても、確実にダメージがあって誰が見ても勝ちじゃないと、海外の審判は旗を上げない。こっちがちょっと押してたとか、そういう僅差では絶対に国際試合、とくに海外での闘いは乗り切れないと思いますね。だから本当に効かせてほしい。

−初めてアウェーで行われた、ハンガリーでの第2回大会の結果は意識していますか。

野本 やっぱり頭にはありますね。僕は出てないんで聞いた話ですけど、その大会の時は、日本人選手の意識の中に甘えがあったのでは、という反省もうかがいました。だから、甘さは、今大会では絶対にないようにしていきたいなと思います。

−大会も直前なので、これからは体力や技術というより、心の問題が重要になってくると思います。“大和魂”という異名を持っていた三好師範は、選手たちにどんなことを教えてらっしゃいますか。

三好 日本代表になったという誇りを大切にして、それに恥じないように自分自身に厳しくする。人には優しくするんですけど、自分自身は極限まで厳しく追い込んで、どんなに苦しくてもあきらめないし、絶対に後ろに下がらない。そういうことですね。我々が本部時代に大山総裁から教わったのは、「どんなに強い相手でも、どんなに大きい相手でも、日本人は絶対に後ろに下がったらダメだ。とにかく前へ行け。前へ行ってダメならナナメに回ろうじゃないか」ということです。それをいつも道場では言っています。

三好師範
相手を倒した瞬間には、相手を心配してあげられる。それが、新極真の空手家です(三好師範)

−それは、まさに野本選手のスタイルですよね。

野本 下がったり回ったりというのは自分ができないことでもあるんですけど、やはり前へ前へ、倒れるなら前を向いて倒れるというのは意識しています。師範に教えていただいたことですから、それはつねに実践したいと思っています。最後の最後は、やはり気持ちが一番大事になりますから。

−三好師範も現役時代、骨が折れても欠場はまったく考えなかったそうですが、世界と闘う時はどんなことを考えていたのですか。

三好 大山総裁から教わってきたことには、欠場というのはないんですよ。棄権するということは、絶対に許されない空手だった。試合場に立てるんだったら、闘わなければダメだと。闘う前に欠場というのは絶対に日本人選手にはしてほしくないと思います。それが我々が大山総裁から、また先輩方々から引き継いできた伝統です。

−野本選手も、そういう心構えですか。

野本 押忍。日本代表になった誇りを持って闘うというのは師範から学んだことですし、そういう心意気を継承する責任を感じています。

−主将に選ばれたというのは、どんな心境ですか。

野本 正直、最初は自分でいいのかなと思いました。自分よりも世界と闘って成績を残している選手がいらっしゃいますから。そういう選手を差し置いて自分がキャプテンになるということに対してはプレッシャーもあったんですけど、選んでいただいたからには自分ができることを精一杯やろうと思っています。

−今までの大会とは気持ちも違いますか。

野本 今までの世界大会は、自分がどこまでがんばれるかというのを一番考えていたんですけど、今回は、やはり日本人選手が全階級制覇する、という思いのほうが強いですね。

三好 彼がキャプテンに選ばれた理由は、厳しい仕事をしながら稽古をがんばっているという点が大きかったんじゃないでしょうか。社会人としての生活を持ちながら、他の選手と同じことをやっている。時間が限られている中で、ひじょうに立派にこなしています。そのがんばりをキャプテンとしてみんなに見せたい。その逆境に打ち勝つ力というのが、世界で闘う時には絶対必要なんですよ。実際、彼の生き方というのは、すごくいい影響を与えていると感じます。緑代表、小林副代表はじめ理事の皆さんが彼をキャプテンに選んでくださったというのも、そういう生き方がオールジャパンの選手たちにも必要だと思ってくださったんじゃないかと思います。

−野本選手、自分なりの人生のルールみたいなものはありますか。

野本 できることは手を抜かずにやりたいです。一度でも手を抜いたり、気持ちをゆるめてしまうと、どうしてもゆるめたところが基準になってしまう。手を抜かずにがんばるのはキツいんですけど、その高いレベルを自分の中では基準にしたい。そういう意識はあります。ただ、仕事に関しては、自分の場合は会社の方にもすごく理解していただいて、たとえば残業があっても稽古に行かせてもらってますし、大会があったら忙しくても休みをもらってますし、本当に人に恵まれています。それに選手稽古には、みんなも忙しくても必ず集まりますし、高知からも竹澤(剛)先輩が毎週来てくれています。決して自分一人の力でやってこれたわけではなくて、人に恵まれてこのチャンスをいただけたと思っています。

−四国岡山地区合同稽古が盛んに行われていますが、その影響はありますか。

野本 原内(卓哉)先生や石原(延)先生に、僕の知らない技を教えてもらっているという部分で、僕の組手にとってもプラスになっていますが、子共たちと一緒にやることによって、子共たちの見本になりたいという意識も芽生えてくるんですよね。見られることによって、自分が成長できる。そういう部分でも、すごくプラスになっていると思います。

三好 四国の子供たちにとったら、ワールドカップに出場する人、世界大会で活躍した人の胸を借りられるというのは、どんなにうれしいか。また、その選手たちの姿勢とか立ち居振る舞いを見ることで、どれだけ勉強になるかということですよね。一緒に稽古をすることによって、「ぼくも全日本の強化指定選手に入りたい」という選手も出てくるだろうし、「世界大会に出るんだ」「ワールドカップに出るんだ」と、どんどん相乗効果が出てきます。そうなったら、新極真全体のレベルがもっともっと上がっていくと思うんですよ。我々の役目というのは、そこなんですよね。だから、四国は地の利も悪くて大変なんですけど、これを続けていく価値は大いにあると思います。

−四国から世界に出た選手は、重要なところで外国人の勢いをストップするケースが多いですよね。これは偶然でしょうか。

三好 四国の土地柄が、そういうのに向いているのかもしれないですね。言葉は悪いですけど、防波堤になるというか、砦になるという意識はあるんじゃないでしょうか。前川(憲司)しかり、逢坂(祐一郎)しかり、野本しかり、竹澤しかり。みんな外国人選手に対してがんばってきていますからね。そういう気持ちは次の世代も引き継いでもらいたいし、全体のレベルを上げていきたいんだという我々の思いは、オールジャパンのメンバーたちが引き継いで、ぜひ新極真を「世界最強最大の組織」にしていってほしいと思います。

−最近では、海外の選手も精神的な部分が強くなってきているということをよく聞きます。

三好 もうブルガリアの選手なんかは、日本人と変わらないですよね。昔の外国人なら嫌っていたような精神的な空手を、すごく好んでやりますから。我々がブルガリアに行った時も、車の中でいきなり『ラストサムライ』の音楽が流れてきたんですよ。そういう国ですから、サムライ精神とか、日本人の心というのを、すごく重んじています。だから怖いですよね。でも怖い怖いと言っていたら進歩がないですから、それをまた日本が引き離して、どんどんリードするために、みんなが力を合わせて強化稽古をやっているわけです。

三好師範
自分一人の力ではない。人に恵まれてこのチャンスをいただけたと思っています(野本)

−世界中がレベルアップしている中で、日本人だけができることというのは何でしょうか。

野本 やはり空手母国としての誇りを持つことでしょうね。日本で空手をやっているということに誇りを持って、普段の稽古や試合に臨むことだと思います。

−三好師範も、現役時代にアメリカに合宿に行かれたことがありますよね。大会ではありませんが、時代が時代だけに、試合に臨むような心境だったのではないかと思います。

三好 闘いでしたよね。向こうも、そのつもりですから。あれは第2回世界大会に向けての合宿だったんですけど、今と違ってホテルも用意されていない。道場に泊まって、キックミットを枕にして寝るような環境でした。今の選手たちに理解してほしいんですけど、恵まれた環境にあるというのは、それを下で支えてくれる人がいるんだということです。それを思いながら闘ってほしい。そして、対戦相手に敬意を持つこと。相手を倒した瞬間には、相手のことを心配してあげられるようなやさしい人間。それが、新極真の空手家です。我々は大山総裁や先輩たちからそういう生き方を引き継いできた。それを今の選手たちに伝えるのが、我々の役目。今の選手たちは、それをユースたちに伝えていくのが役目。それが“伝統継承”ということではないでしょうか。

野本 押忍。

−ロシアに向けての準備は万全ですか。

三好 やることはやってきました。今回はアウェーですから、大会直前に現地に入ることになりますし、時差もありますし、食事の違いもあります。ただ、今まではそれを海外の選手たちがやってきた。それで負けても一切言い訳をしない。そういう精神を持っていかなかったら、勝てないと思います、また、この間だの全ヨーロッパ大会にも、ヨーロッパの選手達は出場していました。ワールドカップ直前であっても、調整のためにあれだけの大会に出てきて闘うわけです。そういう試合にかける意気込みという点でも危機感はあります。それでも、日本代表選手団のがんばりを信じてます。今までやってきた稽古を信じて、王座を絶対に守ってほしいと思います。

野本 押忍。

−では、最後に日本選手団を代表して、野本選手、あらためて決意をお願いします。

野本 日本代表選手は、みんな同じ気持ちだと思います。空手母国日本の誇りを持って、全階級制覇を目指してがんばってきます。