第10回オープントーナメント全世界空手道選手権大会

2011年10月22−23日 東京体育館

空手LIFE 2011年12月号掲載  Photos/林田哲臣、福地和男、増村貴宏、歌代孝正

(愛媛湯の山道場)世界を凌駕した日本の空手。王座死守の原動力は「心」だった


左右の足で後ろ蹴りを放った塚本。トーナメント中のダメージは少なく、最後までスピーディな動きを見せた。

昨年の全日本と同じ顔合わせになった決勝戦。日本の優勝が決まった後、塚本は「あとは思いっきりやろう」と村山に告げた。

大会を通じて重要な役割を担った塚本の横蹴り。村山が尻もちをついたところで副審の二人が技有りの旗を上げる場面も。

塚本の多彩な攻撃を受けながら、村山はじりじりと前に出て強烈な付きを見舞っていった。
 
勝ち上がる過程で両足を痛めてしまった村山だが、それをこらえて下段蹴りを繰り出し続けた。

塚本の多彩な攻撃を受けながら、村山はじりじりと前に出て強烈な付きを見舞っていった。
 
勝ち上がる過程で両足を痛めてしまった村山だが、それをこらえて下段蹴りを繰り出し続けた。

緑健児代表とがっちり握手を交わした王者。その後のインタビューでは「(村山)は去年よりも強かった。これで後輩に任せてゆっくりできます」と語った。

日本選手団による胴上げ。「日本の仲間たちが闘う姿に感動して、必ず王座を守るという気持ちで闘いました」(塚本)。

男子部門の入賞者。ベスト8の日本人選手は4年前より一人増えて3名。その数字以上に、未来につながる内容だった。

次のW杯・世界大会は任せたぞ。ユース世代に希望の光が見えた


今大会の優勝戦線を占う大きなポイントとなった、島本雄二 VS ヴァレリー・ディミトロフの五回戦。島本はヴァレリーの猛攻に耐え、試割り判定1枚差(島本15枚、ヴァレリー14枚)で外国人三強の一角を崩した。

敢闘賞を獲得したウエイト制軽量級王者の前田優輝は、五回戦に進出。相手は、昨年の全日本大会の再戦となる村山努。判定3−0で惜しくもベスト8進出は逃したが、前田に大きな拍手が贈られた。
 
日本人がことごとく敗退したBブロックでは、17歳の高校生・水野暁記が大活躍。ブライアン・ヤコブセンのヒザ蹴りをもらい本戦5−0で敗れるも、ベスト16入りをはたした。

三回戦で前田はロシアのデニス・エルショフと互角の勝負。回転系の技だけではなく打ち合う場面も作り、会場を大いに沸かせ、体重判定勝ちを収めた。
 
ウエイト制中量級ファイナリストの加藤大喜は、三回戦でアレクセイ・レオノフと手に汗握る攻防を展開。最終延長5−0で難関を突破した。

重量級期待のホープ・落合光星は、ドナタス・イムブラスを破ったカザフスタンのイリヤ・ヤコブレフと四回戦で激突。互角に打ち合い体重判定で涙を飲んだが、世界の舞台で闘えることを証明した。
 
四回戦で試合巧者のマリウス・イラスと対戦した島本雄二は、的確に蹴りを当てていき、最終延長4−1で下した。

ウエイト制中量級王者の島本一二三は、四回戦でロシアのアンドレイ・マテロフと対戦。接近戦でリーチの差を解消しつつヒザ蹴りに注意していたものの、掴みの減点を受けてしまい本戦0−5で敗れる。この経験を次の国際試合で晴らしたいところだ。

レオノフを倒した加藤大喜の四回戦の相手は、ロシアのエフゲニー・アンドルーシコ。パワーの差が出たのか延長4−0で負けてしまったものの、今回の経験でさらに強くなっていることだろう。

将口恵美、世界王者へ。塚本と約束したエースの絆


日本女子代表選手がことごとく敗れる中、将口は決勝戦へ進出。師匠の山本健策支部長も気合いが入る。

マルガリータとの真っ向勝負を受けて立った将口。一歩も引かない展開となる。

強烈なヒザ蹴りが飛んでくるが、将口は下段蹴りで軸足を崩しにかかる。
 
塚本とともに将口恵美も世界一となり、男女ダブル優勝をはたした。

将口は上段への蹴りで、マルガリータの圧力を止めにかかった。

マルガリータの外廻し蹴りが将口に襲いかかった。
 
突きに合わせて、中段廻し蹴りを決める将口。延長に入るとマルガリータは、掴みの注意を2回受けてしまい、痛恨の減点1。さらに顔面殴打の注意も加わり、判定5−0で敗退した。

優勝が決まった瞬間、将口はこの表情。マルガリータが反則をしてしまうほど、気持ちを前面に出して追い込んでいたのだろう。
 
緑代表と握手した時は、もう涙が止まらなくなっていた。

日本の女子代表選手を中心に胴上げ。王座奪回は、将口だけではなく、みんなの力が結集された結果だ。

将口は二回戦で、ルタ・ブラズィオナイテと対戦し、本戦5−0で貫禄勝ち。

三回戦で将口は、ヴィヴィアナ・アレクサンドラ・チリラを破ったジェフィニ・カルヴァルホと激突。ここも本戦3−0で下し、勢いに乗った。
 
女子準決勝戦でマルガリータは、キャロリーン・ブリックスを延長で下した。なお、準決勝戦のもう1試合は、インガ・ミクスタイテが顔面殴打でドクターストップがかかっていたため棄権となり、将口の不戦勝となった。

三好一男副代表(日本代表総監督)のコメント

三好一男 副代表
(日本代表総監督)

−ここまでの結果を予想していましたか。

三好 誰も予想していなかったでしょう。期待以上でした。新極真の風が吹きましたね。すべてが、その風に乗りましたよ。

−塚本選手という一つの物語が完結した一方で、若手選手の活躍により次につながる内容にもなりました。

三好 点ではなく線になりましたよね。塚本選手の優勝インタビューは昨年も感動したんですが、今年も素晴らしかった。「こういう大変な時に海外の仲間が来てくれたから大会も開けた」ということを話していましたから。彼はスーパースターの資格があるなと思いました。第10回大会までの歴史の中で3本の指に入りますよ。天才が努力をしたら、あんなふうになるんだなと思いました。夢を全部ホンモノにしてしまう。塚越選手が負けて、ベスト8に日本人が3人にしか残らなかった時、少し嫌なムードになったんですが、村山選手、島本雄二選手のがんばりもあって、最高の結果になりました。

−震災のせいもあるのか、日本勢はいつも以上にムードが良かったように思います。

三好 日本選手団に火をつけてくれたのが初出場の河鰭選手ですね。彼がヴァレリー選手に真っ向勝負を挑んで、前田選手、加藤大喜選手、落合選手など初出場組に火をつけた。水野選手も10代ですからね。ユース・プロジェクトは出来すぎと言っていいほどの結果を生みましたから、これからますます気を引き締めてがんばらないといけないと思いました。リトアニアもアンダー22の大会を始めていますし、今回の大会前にもリトアニア代表は千葉で1週間合宿を張ったんですよ。そういう「打倒日本」という大きなエネルギーに対して、こちらもそれに答えていかないといけない。お互いに切磋琢磨していけたら、もっとレベルアップしていくんじゃないかと思います。

−ロシア、カザフスタン、ポーランド、ブルガリアなど、海外でも新世代が着実に育っていることがわかりました。

三好 組織がどんどん大きくなってきていますから、海外勢もそれに比例して強くなっていますよね。これから大変ですけど、がんばりがいもあります。こういう時に塚本選手のような男が優勝したのは良かったと思います。15年前のインタビューと今回のインタビューを比べたら、空手はこんなに人を作っていくんだなと思いましたし、何度も優勝してきた中で彼のご両親が泣いているのは初めて見ました。最高の親孝行ですよ。その親孝行を若い選手たちに見せてくれたことが、日本代表総監督として一番うれしいことでした。後輩たちへ最高の見本になったと思います。



世界79カ国による空手の祭典は大団円で幕を下ろした。

二日間に渡って熱戦が繰り広げられた東京体育館。
 
3階席まで埋め尽くした観客が手に汗を握った。

世界大会だけに海外からのファンも多く、会場は国際色豊か。
 
開会太鼓、終了太鼓を務めたのは東京西支部の柚井知志支部長。

初日の選手入場式。会場には第10回大会のために書家・柿沼康二さんが書いた「空手」の文字が飾られた。

開会の挨拶で緑代表は「今春、日本は東日本大震災の被害に見舞われました。今大会の開催を通じて、世界の皆様とともに復興に向け力強い歩みを示していきたいと願っています」と述べた。

ドルフ・ラングレン参段の特別演舞後には緑代表、音楽家・長渕剛さんの夢のスリーショットが実現した。
 
長渕さんが音楽プロデュースし、ラングレン参段が特別演舞を披露。氷柱割りに観客から大きな拍手が送られた。

大会に華を添えた少年部演武。
 
試合場だけではなく、3階席の子供たちも正拳突きなどを披露。

総勢804名による壮大な演武だった。
 
2013年の第5回カラテワールドカップが開催されるリトアニアよりロマス・ヴィトカウスカス支部長が挨拶「首都・ビリニュスで開催できることを喜んでおります。みなさん、リトアニアへようこそ!」。

2日目の選手入場式では振袖姿できらびやかな女性たちが選手を先導。
 
元プロ野球選手・野茂英雄さんも来場。

大会後に東京ドームホテルにて行なわれた「さよならパーティー」では入賞者が登壇し、挨拶。女子選手もドレスアップ。

会場に来場した歌手のAIさんがパーティーにも参加。「Story」をアカペラで熱唱し、選手・関係者を喜ばせた。
 
新極真会の社会貢献活動の一つでもある骨髄バンクチャリティー基金の贈呈式も行われた。

 

塚本、ヴァレリーも参加した世界空手セミナー この激動の時代こそ空手の力が必要となる

2011年10月25−26日 山梨県「富士緑の休暇村」



二日目の早朝は、緑代表を先頭に、神社までランニング。気候が良かったためか、参加者は気持ちよさそうだった。